S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす

「それより、問題は宿だよ。もうお金使いたくないのに」


 パリの宿泊料がなかなか高くて、だいぶ使ってしまったから余計な出費はしたくないのが本音だ。一応名家の娘ではあるけれど、私の金銭感覚は一般的だと自負している。

 悩む私に横目を向けるエツは、呆れと憐みが交ざったような、なんとも言えない表情をしていた。


「安めのホテル探してやろうか。と言っても、この辺も比較的宿泊料は高いけど」
「だよねぇ~。予算ギリギリだから、ここでの出費は痛すぎる……」


 ため息を吐いてうなだれる私は、恨めしげに外交官様を見上げる。


「領事館ってこういう時は助けてくれないの?」
「さすがに金は出せない」
「ですよね」


 もちろんわかっていましたとも。いくら困っている邦人を助けるのが仕事でも、お金を貸したりなんてできないことくらい。

 うだうだしてないで安いホテルを探すか……と諦めかけた時、長い足を組む彼が言う。


「宿泊料ゼロのところもあるっちゃあるが」
「ゼロ⁉ って、絶対いわくつきかなにかでしょう。じゃなきゃ、そんな人のよすぎる宿があるわけない」
「あるよ。俺の部屋」


 耳を疑うような発言にバッと顔を上げると、エツはこちらに意味ありげな視線を向けていた。目を見開いて凝視する私に、彼はふっと鼻で笑う。
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