S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす

「ラヴァルさん……」


 もしかして、さっきの槙木さんと私の会話を聞いていた? エツについていくことを悩んでいる私を励ましてくれているようで、心が温かくなる。


「でも、別の方法もある」


 やや声に真剣さを増した彼は、急に私の手に自らのそれを重ねてきた。エツとは違う手に包まれ、驚きでびくっと肩が跳ねる。


「僕が君の夫になって、ひぐれ屋を継ぐ方法。そうすれば、君はずっと日本に残れるよ」


 空耳かと疑いたくなる発言が聞こえ、私はこれでもかと目を見開いてのけ反った。


「んなっ……!?」


 なんですと!? ラヴァルさんが私の夫に……って、本気!?

 この間ひぐれ屋に来た時も、私と結婚したら若旦那になれるのか、みたいなことは言っていたけれど、さすがにそれを鵜呑みにするほど私はバカじゃない。


「じょ、冗談はやめてください!」
「僕は本気だよ。前に言ったでしょう。『どうしても他にやりたいことができたら、これまでのキャリアは捨ててもいいと思ってる』って」


 私を見つめる翡翠色の瞳は、まったく揺らがずしたたかだ。重ねられた手も熱くて、さらに力が込められる。
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