S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
一瞬ショックを受けたのかと思いきや、まったく効いていなかったので思わずツッコんだ。私を見つめる甘い表情も変わらず、頬にそっと手を伸ばしてくる。
「僕は君のその心に惚れたんだよ。エツトに対する愛情すらも綺麗で、全部欲しくなる」
「や、あのっ──」
なんて断ればいいんだろうと考える前に、身体を引いて拒否しようとした瞬間、勢いよくドアが開かれた。
「ラヴァルさん!」
焦った様子で部屋に飛び込んできたのはエツだ。私がいなくなったことに気づいて探していたのだろうか。
ほっとすると同時に、この状況を見られてしまってギクリとする。
案の定エツはかなり険しい顔をしていて、ずんずんとこちらにやって来た。私の肩を抱いて立たせると、私を守るように自分の後ろに隠す。
「花詠に近づくのはおやめください。フランスでは、相手が結婚していようが好きになった女性は口説くのが普通なんでしょうが、日本では違います。いくらあなたが友好関係にあるとはいえ、これだけは許せません」
力強く言い放った彼は「ご了承ください」と軽く頭を下げ、私の手を引いてさっさと部屋を出ようとする。
その時、ラヴァルさんも立ち上がって「ねえ」と口を開いた。