S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
黙って考えを巡らせていた時、どこからか着信らしき音が鳴り始める。ひとつ息を吐いて動き出したのはラヴァルさんで、スーツのポケットからスマホを取り出す。
その直後、忙しないノックの後に再び勢いよくドアが開かれた。
「石動くん!」
姿を現したのはなにやら切羽詰まった様子の槙木さんで、ラヴァルさんもいるのに気づくと姿勢を正してお辞儀をした。そして、固い口調で告げる。
「ストラスブールで大きな地震が起こったみたい。マグニチュードは5くらいだけど、結構な被害が出ていそうだって」
ストラスブールで大地震……!?
報告された途端、エツとラヴァルさんの表情も強張った。ラヴァルさんにかかってきた電話も、もしかしたらそれについてかもしれない。
フランスは地震が少ない国で、日本のように大きなものは滅多に起こらないと聞く。しかし、だからこそ崩れやすいレンガ造りの建物が多いので心配だ。
冷静な外交官の顔に戻ったエツが、槙木さんと目を合わせて頷く。
「わかりました。ひとまず本省に戻りましょう」
「僕もすぐに帰国する。飛行機は欠航していないかな?」
「ストラスブール国際空港は運航を見合わせているようですが、シャルル・ド・ゴール空港は機能しています。ただ、この先ヨーロッパの天候も悪いようで……」