S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
「ま、お前は嫌だろうから──」
「いいの⁉」
言葉を遮り、ぱあっと表情を輝かせて身を乗り出すと、彼は若干引き気味で目を丸くした。
やば、つい本音が。だって、エツの部屋に上がれるなんて貴重すぎるし、単純に一緒にいられるのが嬉しいから。
でも、ここで素直になれないのが私。小さい頃から〝売り言葉に買い言葉〟という感じで言い合ってきたから、可愛いセリフなんて出てこない。出てくるのは建前の理由だけ。
「や、ほら……背に腹は代えられないっていうか、選り好みしてる場合じゃないっていうか」
「じゃあ、いわくつきホテルでもいいわけだ」
「それは勘弁」
食い気味に返すと、エツはぷっと噴き出した。この人、私がオカルト系が苦手だって知ってて言っているな。
少し頬を膨らませるも、仕方ないので素直な気持ちを口にする。
「……正直、ひとりで過ごすのがちょっと怖くなって。またなにかあったらって思うと、漠然と不安が」
さっきあんな目に遭ったばかりだから、なんとなくひとりでいたくない。麻薬も銃も普段身近に感じたりはしないし、やはりここは日本とは違う国なのだと改めて実感させられた。薄れていた危機感が戻ってきた感じだ。