S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす

「祥くん、構わず挨拶してくれていいよー」と笑うのは、エツがストラスブールにいた時に一緒に働いていたという桧山さん。去年本省に戻ってきて、部署は違うもののエツを贔屓にしてくれている。

 災害があった時、怪我をした上司というのが彼だったらしい。口元の整ったお髭がワイルドなイケメンで、軽い調子だけれどとても頼りになる人だ。

 桧山さんも槙木さんも、ひぐれ屋を気に入って時々利用してくれて、祥もふたりと仲よくなっているので今日お呼びしたというわけだ。


「姉と悦斗さんの送別会にお集まりくださり、ありがとうございます。日頃の嫌なことや面倒なことは忘れて、パーッとやりましょう。かんぱーい!」
「ぱーい!」


 祥の声に合わせてまた美乃莉が声を上げ、賑やかに各々がグラスを掲げた。

 そんな中、肩をすくめて苦笑するのは、祥の隣に座る棗ちゃんだ。


「すみません。若旦那のくせにノリが大学生で……」
「今日は仕事じゃないし、いいんだよ。棗ちゃんも気にせず飲もう!」


 ビールを片手にあっけらかんと言うと、彼女も笑って「はい」と返事をし、グラスを口に運んだ。
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