S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
祥と棗ちゃんは約一年前にめでたく結婚して、暮泉家に嫁入りしてくれた。実は、祥が若旦那になることを渋っていたのは、棗ちゃんのお家柄が関係していたようで……。
『棗の実家は、今も旧華族の血筋を大事にしてる一柳家だぞ? 棗の弟が跡を継ぐ気がなかったら、跡取りがいなくなるだろ。俺が婿入りしなきゃいけないんじゃないかって迷ってたんだよ』
祥にそう打ち明けられた時は驚いてしまった。まさか棗ちゃんの家の事情や、そんなに先のことまで考えていたとは。
私とエツが婚約してから、いよいよはっきりさせなければいけないんだと奮起し、棗ちゃんと話し合いをしたのだそう。
彼女のご両親は本当に理解があり、『血筋にはこだわらないよ。そんなに考えてくれてありがとう』と言っていたという。棗ちゃんの弟くんも、今では普通に結婚願望があるようなので、きっと一柳家の未来も明るいはずだ。
棗ちゃんは今も茶房にいて、私がひぐれ屋を出たら若女将として働く予定だ。彼女なら安心して任せられるし、私自身もこの先どう働いていくかはもちろん考えている。