S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす

 こうして始まった送別会。今夜は無礼講ということで、それぞれ気ままに料理をいただきながらたくさん話をした。

 皆いい具合に酔いが回ってきた中盤辺りで、私が桧山さんにお酌をしていると美乃莉がもじもじしながらこちらにやってくる。


「ママ〜おしっこ~」
「はいはい、ちょっと待ってー」


 徳利を傾けながらそう返していると、すぐにエツが腰を上げる。


「いいよ、俺が行ってくる。美乃莉おいで」
「ん!」


 娘はパパのもとへトコトコと走っていった。優しく微笑んで小さな手を取る彼を見るのはいつものことなのに、私はそのたびキュンとしている。

 しばらくしてふたりがお手洗いから戻ってくると、美乃莉はあぐらをかくエツの間にちょこんと座った。甘えてご飯を食べさせてもらう姿を見て、桧山さんが感慨深げに言う。


「石動がこんなに子煩悩だったとはね。めちゃくちゃ雰囲気柔らかくなったし、人って変わるもんだな」


 ぴくりと反応して一瞬固まったエツは、クールな表情で返す。


「元からですよ」
「いや、実は熱くて優しい男なのは知ってたけど、表には出てなかったんだよ。それが今じゃ、花詠ちゃんと美乃莉ちゃんの前ではデレッデレ」
「桧山さんが勝手にエフェクトかけてるだけでしょう」


 塩対応のエツも健在で、ふたりのやり取りに皆が笑った。
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