S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
でも、桧山さんは間違っていない。私も、子供が生まれてから彼はさらに穏やかになったと感じるから。
祥たちも桧山さんに乗っかってエツをからかって楽しんでいると、槙木さんが少々しんみりした調子で口を開く。
「それにしても、もうあなたたちの送迎会だなんて寂しいわね」
「ああ。せっかく俺も本省勤務になったっていうのに、二年足らずでまたすれ違いだもんな」
桧山さんもやや残念そうに続き、エツはわずかに苦笑を漏らした。
「俺たちはこういう運命なんでしょう。でも、そんなに寂しいならおふたりも家族になったらいいんじゃないですか?」
不敵に口角を上げるエツの言葉に、槙木さんと桧山さんは顔を見合わせる。次いで、「「家族はないわ〜」」と声をそろえて笑い飛ばした。
実はふたり、相思相愛なのに結婚する気はないと明言しているのだ。
同じ期間にフランスにいたこともあって仲がよく、私が初めて槙木さんと会ったパーティーの時は、まだ両片想い状態だったらしい。
あの当時、槙木さんはエツのことが好きなんじゃないかと若干心配していたのが懐かしい。その話をしたら、彼女は驚きつつ『えーごめん!』と謝り、こう話していた。