S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす

『石動くんが結婚して寂しいってのはね、推しに対する気持ちと同じようなものだったのよ。まあ、あの時は桧山ともどっちつかずな関係だったから、なんとなく心細かったのもあるかもね』


 桧山さんのことは好きだが、これからも外交官として世界各地で働きたいので、結婚も交際すらも考えていなかったという槙木さん。

 しかし、彼がストラスブールで災害に巻き込まれたのを聞いて、いてもたってもいられなくなり、気持ちを抑えられなくて告白したのだそう。

 桧山さんにとっても槙木さんは特別な存在だったものの、外交官を続けたいという彼女の気持ちもわかっていたから、想いを伝えるのは我慢していたらしい。

 自分たちの考えを打ち明けた結果ふたりが選んだのは、結婚という契約に縛られず、自由に生きていく道。

 別々の国に配属されたらお互いにその土地で頑張って、時々会って愛し合う。遠く離れても、心が繋がっているのがわかっていればそれで十分なのだと、槙木さんは満足げに笑っていた。


「私たちのことを話すと『そんなの不安でしかない!』って言う人もいるけど、私たちにとってはこの関係が一番合ってるの。どこにいたって、相手を想う気持ちさえあればいいって思う」
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