S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす

 槙木さんは今も自然な笑みを浮かべてそう言った。

 彼女の考え方は恋愛を超えたもののようにも感じる。家族や友達に対しても同じことが言えるんじゃないかな。

 なにが一番大事なのかをそれぞれ再確認させられたようで、私たちは温かな雰囲気に包まれていた。


 盛り上がった送別会を終え、私たちは三人でひぐれ屋の一室に泊まった。お酒も飲んでいるし、たまには宿泊してみようと思ったのだ。

 部屋の中からはライトアップされた風情のある日本庭園が見え、静かでとても心が落ち着く。美乃莉がすやすやと寝息を立てる中、月明かりと外の照明だけを頼りにしてエツと酔い覚ましのお茶を嗜んでいる。

 が、彼の浴衣姿がとてつもなくセクシーなので、私はいまだに酔わされっぱなしだ。たわいのない話をして気を紛らわすしかない。


「お客さんとしてひぐれ屋に泊まるって、なんか不思議な感覚。でも、改めて素敵な旅館だなって思う。昔、エツと遊んだ思い出の場所でもあるし」


 許嫁だった頃の、甘酸っぱい記憶をたぐり寄せる。エツも懐かしい目をして庭を眺めていた。
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