S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
約一週間後、私たち家族は大きな荷物と共に羽田空港にいた。暮泉家と石動家の皆がお見送りをしに来てくれて、昔以上に仲よくなっている様子に改めて喜びを感じる。
「花詠ちゃん、シアトルに行ってもよろしくね」
「はい。頑張ります」
実弦さんと握手をして、私は笑顔ではきはきと答えた。
頑張るのは海外生活だけでない。シアトルにある石動グループのホテルで、私は時々アドバイザーとして働くことになっているのだ。
エツについていくと決めてから、海外でも旅館で培った能力を活かせることはないかとずっと考えていた。そうして思いついたのは、世界各地にある石動グループのホテルで働くスタッフの方々と、おもてなしの心を共有すること。
エツも石動家の皆も賛成してくれて、このたび実現する運びとなったのだ。美乃莉もいるので都合が合う時にのんびりやるつもりだが、これからも宿泊業に携われるのは嬉しいし気分も明るくなる。
「あんまり頑張りすぎないで、とにかく身体に気をつけて。みーちゃんの写真もたくさん送ってね。時間ができたら帰ってくるのよ」
母の過保護さは健在で、この間から同じことを何度も言う。私はクスッと笑って「わかってるよ、大丈夫」と宥めた。