S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
父は真剣な面持ちでエツと向き合う。
「花詠と美乃莉のこと、頼んだぞ」
「お任せください。ふたりが安心して暮らせるよう努めます」
しっかりと答えるエツを、私は揺らぎない信頼を抱いて見つめていた。
ひしひしと名残惜しさを感じながらも、彼らに別れを告げて飛行機に乗り込むと、美乃莉が不安そうに私の手を握る。
「ママ~。じーじたち、いつあえる?」
「そうだなぁ、次に会えるのは来年になるかな。雪が降って、あったかくなってから」
「まだまだ? しょーくんも?」
「そう」
正直に答えると、彼女の表情はみるみる曇っていく。お気に入りのリュックをぎゅっと抱きしめていて、うさぎのぬいぐるみを抱くレアナちゃんと重なった。
「やだ……」
「寂しいよな。でも、これからたくさん素敵なことが待ってるぞ」
「そうだよ。ママも初めての場所だからちょっとだけ心配だけど、一緒に楽しもう」
頭を撫でるエツと一緒に明るく声をかけるも、美乃莉の機嫌はなかなか治らない。彼と顔を見合わせた直後、私はひとつひらめいて「そうだ」と呟いた。