S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
まあ、大人になった今は、祖父が亡くなったのは大好きだったお酒と煙草のせいでは?と思っているのだけど。……十中八九そうだろうな。
当時はそんなことわからなかったので、私は両親の言うことを鵜呑みにしてしまっていた。『悦斗くんとも遊ぶのはやめなさい』と口酸っぱく忠告されて、いつの間にかエツも悪い人なのだと思い込むようになっていたのだ。
それ以来彼を避けるようになり、学校で出食わすとぷいっと顔を背けていた。
『あ、エツの許嫁ちゃんだ。元気ー?』
私たちの関係を知っていたエツのクラスメイトの男子がそうやって話しかけてきた時も、私は仏頂面でツンツンしていたのを覚えている。
『もう結婚なんかしないの。エツは悪い男だったんだもん』
『なにそれ、弄ばれたってこと?』
『モテ、遊ばれ……? たぶんそう』
当時はあまり意味がわからなくて適当に頷いたら、翌日には〝石動カップルが破局!〟と、芸能人のスクープばりに噂が広まっていた。
悪い男の烙印を勝手に押されたエツは、皆から冷やかされて大変だったに違いない。廊下ですれ違った時、怒りマークが見えるような顔でじっとりと睨まれたので、私は冷や汗をかきつつそろりと視線を反らしたのだった。