S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
彼も両親から暮泉家と距離を置くよう言われていたに違いないが、私の態度にも嫌気がさしただろう。週に一回は必ずひぐれ屋に遊びに来ていたのに、いざこざが起きて以来ぱったり姿を現さなくなった。
いざ会わなくなるとすごく寂しくて。仲よくしてはいけないと思えば思うほど、彼を見つけて避ければ避けるほど、心に原因不明の鈍痛が走った。
その痛みにも次第に慣れ、小学校を卒業する頃にはエツと顔を合わせても平気になっていた。というか、私も口達者になってああ言えばこう言う犬猿の仲へと変わっていたのである。
昔から落ち着きがあったエツは、高校生にもなるとより大人びてひと際目立つ存在になっていた。容姿も立ち振る舞いも他の男子とは一線を画していて、皆からの羨望の眼差しを集めていたのは明らかだ。
成長するにつれ彼の魅力は増すばかりで、私はそれが憎らしかった。周りの女子が皆、目をハートにしているのも。
バレンタインは特に、渡り廊下で繋がっている高校の棟で、彼がチョコレートを渡されているシーンを何度も見た。
『花詠は渡さないの?』と友達に言われたけれど、もちろん元許嫁の相手に渡すわけがない。
暮泉家と石動家が絶交状態であることはわりと有名だったが、昔の関係を知らない人たちは、エツに興味のない女として私を珍しがっていた。