S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
二日前からフランスに旅行をしに来ていて、昨夜まではパリにいた。高校時代からの友人がCAをしているので、彼女のフライトに合わせて同じ便に乗り、ステイ中に現地を案内してもらっていたのだ。
彼女は昨夜、日本に向けてシャルル・ド・ゴール空港を飛び立っていったが、私はせっかくなのであと一日だけパリから電車で約二時間のストラスブールで過ごすことにした。
一人旅は好きで、一日でも休みなら国内のあちこちにふらっと出かけるのが日々の癒やし。
ただ外国は初めてなので、比較的治安がいいこの街でもスリに遭わないようにと、バッグはしっかり握りしめつつ観光を楽しんでいる。
私、暮泉花詠は、実家が由緒ある旅館を経営しており、普段は若女将として働いている。
肩下十センチほどの緩くうねった髪はすっきりとまとめ、薄桜色の着物を着て、訪れるお客様が安らげるよう笑顔で気配りしているのが普段の私。
「美人若女将だね!」なんてうまいことを言ってくれる人もいるけれど、笑うとえくぼができるので可愛く見えるだけかもしれない。
生まれた時から二十五歳になる今までずっと同じ旅館にいるため、時々見知らぬ土地で羽を伸ばしたくなる。近場でもいいから、旅館から離れることが私のストレス発散法なのだ。