S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす

 すっきりしない気分のまま仕事を続けていると、案の定先ほどの件で島田社長がクレームをつけたようで、父が事務仕事をしている執務室に呼び出された。

「どういうことだ、花詠」と怒りを抑えて問う父に、エツの名前は出さずに事実を伝える。

 その最中に外から声をかけられ、私が戸を開けると、なんとそこにいたのはまたしてもエツだった。

 驚いているうちに彼は遠慮なく中へ入ってきて、十数年ぶりに父と対面する。デスクチェアに座って腕組みしていた父は、目を見開いて背筋を伸ばす。


「え……悦斗、くん?」
「ご無沙汰しています」


 簡潔に挨拶して頭を下げた彼はこちらを一瞥し、どうしてここへ?という私の疑問に答えるように口を開く。


「帰ろうとしてたら、暮泉さんがご立腹の様子で花詠を連れていくのを見て、さっきの件だろうなと。俺も話したほうがいいだろ」


 どうやら見られていたらしい。昔、この執務室で遊ばせてもらったこともあるから、こんなに堂々と入ってこられるのだろう。

 まず、なぜエツが旅館に来ているのかと混乱しているであろう父に、大学の皆と忘年会をしに来ていたのだと説明した。

 父はすぐに事情を察し、目を鋭くして威圧感たっぷりにエツを見上げる。
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