S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
「君は人を不愉快にするのが得意なようだ。あの家の人間に関わるとロクなことにならない。帰ってくれ」
「お父さん!」
私のためにしてくれた彼になんて酷いことを言うの⁉と、つい憤りを抑えられなくなって声を荒らげた。
エツはなにを言っても無駄だと悟ったのか、冷めた表情で「失礼しました」と頭を下げて踵を返した。私は慌てて彼を追おうとする。
「待って──!」
「やめなさい、花詠。仕事中だぞ」
すぐに父の厳しい声が飛んできて、情けなくも足を止めてしまった。扉が閉まり、私たちふたりを残した部屋は気まずい静けさに包まれた。
肩を落とす私に、父が硬い声で確認する。
「まさか、ずっと悦斗くんと親しくしていたわけではないよな?」
「……親しくなんかないよ」
胸が痛むのを感じながらぽつりと呟いた。
仲よくしたくてもできなかったんだよ。きっとこれからも、この父の元にいる限りは無理だ。彼に嫌な思いをさせるだけ。
やりきれない私の心情を知ってか知らでか、父は「それでいい」と無情なひと言を吐く。悔しさで視界が滲み、強く握りしめる拳を着物の袖で隠した。