S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
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あの一件から、迷惑をかけたくなくて私はまたエツとの距離を置いたのだ。大学四年の彼は講義もほとんどない時期だったので、会わなくなるのは簡単だった。
私は海外のお客様に少しでも寄り添えるように、付属の短大で基本的な英語を学んだ。私が卒業してしばらくした頃に、エツは本省での研修を終えてフランスへ飛び立ち、今に至る。
昔のような関係を取り戻せないまま七年も経ってしまったのは、こういった経緯のせいである。
懐かしくほろ苦い出来事を昨日のことのように思い返していた私は、汗を掻いたビールのグラスを眺めつつ口を開く。
「……エツが忘年会をしにひぐれ屋に来たの、覚えてる? あの時はごめんね。私のこと助けてくれたのに」
ずっと言いそびれていた謝罪をすると、彼はすぐに合点がいったようで「ああ」と軽く頷き、苦笑を漏らす。
「セクハラロリコン社長の件? あれは俺も未熟だったなと思うよ。今ならもっと上手く立ち回れてたはずだ」
「でも、私は嬉しかった」
やっぱり今日は、素直な気持ちを自然に表せる。エツの表情も柔らかくなった気がして、心はますます軽くなっていく。