S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす

 先ほどスーパーで、エツは飲み足りない私のために名産のアルザスワインを買ってくれた。これからそれで晩酌しようという寸法なのだが、緊張で酔えないかもしれない。

 バスルームを借りるのすら緊張してしまうが、一旦ひとりになって気持ちを落ち着かせたい気もする。とりあえず言われた通り、シャワーを浴びることに決めた。

 ここでも日本とは違い、バスタブはあるものの洗い場がない。エツいわく、フランス人はシャワー派が圧倒的に多く、バスタブにお湯を張ったとしてもそのお湯で髪や身体を洗うのだとか。

 そして朝浴びる人が多いらしく、エツも明日にすると言っていた。たまたま領事館が休みなので、空港まで送ってくれるとも。

 旅の最後まで一緒にいられることが嬉しい。ただその分、離れがたくなってしまいそう。

 彼と同じシャンプーの香りを纏うだけで胸が苦しくなる。このもどかしさも洗い流すべく、熱いシャワーを頭からしっかりと浴びた。

 ラフな部屋着に着替えてリビングに戻ると、ワイングラスやウォッシュチーズのマンステールがすでに用意されていた。それらを前にソファに足を組んで座る彼が、なんと絵になることか。

 緊張しているのがバレないよう、なにも気にしていないフリをして隣に座り、改めて白ワインで乾杯した。

< 56 / 245 >

この作品をシェア

pagetop