S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
「あの子は継ぐ気なさそう。一応経営の勉強はしてるし、旅館の手伝いもたまにするけど、真剣さが感じられないっていうか。従業員の子と付き合ってるしね」
「お気楽なもんだな」
エツの目が据わり、呆れ気味に呟いた。
私たちの両親に確執が生まれた頃、祥はまだ赤ちゃんで、エツもあまり関わったことはない。ただ、祥も同じ学校だったし、姉弟そろっている時にたまたま会ったりもしたので、お互い顔見知りではある。
祥が旅館を継ぐのを両親は強く望んでいるのだが、本人はのらりくらりとしていて跡を継ぐと明言するのを避けている。他にどうしてもやりたいことがあるなら私は応援してあげたいけれど、そういう感じでもないから困っているのだ。
付き合っている彼女は二十二歳で、私も仲よくしている性格のいい子。ふたりが恋人同士であることはごく少数の人しか知らず、もちろん両親はその中に入っていない。
彼女のためにも将来どうするのか、はっきりさせたほうがいいと思うんだけどな……と考えているうちに、また別のことが気になってくる。
「エツは? 今さらだけど、彼女いないの?」
「いたらお前を泊めたりなんてしない」
「だよね。でも、そろそろ結婚したいなって思わない?」
こてんと首をかしげて隣に目を向けた。酔っ払うとこんな質問もストレートにできる。