S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
そうしてシャルル・ド・ゴール空港に到着し、無事に搭乗手続きを済ませた。噴火の影響は大きなものではなかったらしく、今日は順調に運航しているようだ。
出国審査を行うゲートの前でエツと向き合う。
彼と話せるのはこれが最後。もちろん日本に帰国すればまた会えるけれど、あえて約束はしていないし、いつそんな日が来るかもわからない。
「次はいつ日本に帰ってくるの?」
「早ければ来年。もっと長くなったら、さらに一年は帰れないだろうな」
「そっか……」
一年は確実に待たなければいけないのか。これまで会わなかった期間のほうがずっと長いのに、どうやって今まで耐えてきたんだろうと思うくらい、ものすごく寂しい。
その気持ちを表に出さないようにしたいけれど、自然に視線が下がっていく。うまい言葉も出てこなくて、無意識にまたバッグについているガムランボールをきゅっと握った。
「それ、まだつけてたのか」
エツの声にふっと顔を上げると、彼は私の手元に視線を向けている。懐かしそうな、優しい目をして。
ガムランボールのことを覚えていたんだなと、ほんの少し嬉しく思いつつ「うん。可愛くて」と頷いた。