S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
その後も、他のお客様に問題がないかを確認していた。午後七時頃、なにもなさそうならあとは仲居さんに任せて、私や母は業務を終える。
仲居さんたちは食事が終わると後片付けに奔走しなければならないし、まだ慌ただしい時間は続いている。私もこの時間になるとクタクタだけれど、着替えて旅館を出るまでは気が抜けない。
廊下で会ったお風呂上りらしき中年男性のお客様にも、疲れを見せず姿勢を正して品よく笑顔で接する。
「いいお湯だったよ~。料理も美味しかったし」
「ありがとうございます。明日の朝食も楽しみにお待ちください。おやすみなさいませ」
お腹の前で自然に手を重ねて言い、うやうやしく頭を下げた。
ゆっくり姿勢を戻し、部屋へ向かう男性を見送ってひとつ息を吐いた時、なにやらロビーのほうから声がするのに気づく。
クレームとかではなさそうだけど……と思いつつそちらへ向かってみると、祥が四人の若い女性陣に囲まれていたので、私は脱力した。
今日も大人気だな……。こういうのに慣れている祥は、まったく動じず営業スマイルをキメているけれど、ここに棗ちゃんが来たらめちゃくちゃ焦るに違いない。