S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす

「若旦那さん、すっごいイケメンですよね!」
「写真撮らせてもらってもいいですか?」
「申し訳ございません。建物や料理以外の写真はお控えいただいております。ですので、ぜひまた直接会いにいらしてください」


 愛嬌があり、かつ大人びた笑顔を振りまく彼の言葉に、女性陣は目をハートにして「はいっ!」と従順に答えていた。私は内心苦笑いする。

 祥は旅館を継ぐ気があるのかどうかはさておき、若旦那としての素質は備えていると思う。ちゃらんぽらんに見えて気が利くし、なにか問題が起きた時も誠実に対処できるし。だからこそ、継がないのはもったいない気がしてしまう。

 浴衣姿で部屋に戻っていく彼女たちに、私もたった今通りかかったように装い、祥と一緒に「おやすみなさいませ」と頭を下げた。

 ロビーが静かになると、祥はドヤ顔で私に親指を立ててみせる。


「リピーター、ゲット」
「なんか腹立つわ」


 こっちはどうしたらまた来てもらえるか試行錯誤しているっていうのに……と、口の端を引きつらせて速攻で返した。こんな砕けたやり取り、絶対お客様には見せられない。
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