S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
気を取り直して、祥は夕食が終わるまで働く予定なので、先に上がることを伝える。
「お疲れ様。私、執務室に寄ってから帰るね」
「俺も、板前のおっちゃんから父さんに伝言頼まれたから行くところだったんだ」
それならと、別館にある執務室に一緒に向かうことにする。我ながら仲のいい姉弟だ。
客室がある本館と、従業員だけが使っている小さな別館は、屋根がついた渡り廊下で繋がっている。穏やかな夜風に乗って桜の花びらが舞うそこに出れば、私たちはようやく普通に話せる。
「棗ちゃん、今日は遅番なんでしょ。着物姿が見られてよかったねー」
「おう。さっきすでに茶房に様子見に行ったけど」
冷やかしたものの、仕事中に逢瀬を重ねるな!と眉間にシワを寄せる私。
「この不届き者!」
「お客さんを案内したついでだよ。何回見ても可愛いんだよなぁ。ご飯三杯、いや五杯はイケる」
「真面目な顔で言うな」
腕組みをしてひとり頷く弟は、予想通り彼女と同じことを口にしていた。ほんとバカップルなんだから。
呆れた笑いをこぼして執務室の前にやってきた時、中から少々怒気を含んだ声が聞こえてきた。