S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす

 祥と目を見合わせてお互いに耳をそばだてると、おそらく父と母がなにかを言い合っている。ケンカしている風ではなく、なにかの問題に対して議論しているような感じだ。

 もう一度目で合図してから、コンコンとノックをして木製の扉を開ける。

 大正ロマン風の落ち着いた内装の部屋には、やはり両親がいた。デスクチェアに座る父は険しい表情で、その向かいに立つ母も困り顔で私たちに視線を寄越す。


「ああ……あんたたち、お疲れ様」
「なに、トラブル?」


 今いるのは家族だけなので、祥が軽い調子で問いかけた。父は眉間のシワを濃くしたまま、祥を一瞥してそっけなく言い放つ。


「ここを継ぐ気のないお前には関係ない」
「「子供みたいな意地張らないの」」


 私と母の呆れた声が重なった。祥に対して父がふてくされるのも、私たちが今みたいにツッコむのもいつものことだ。

 話す気のない父の代わりに、母が一部始終を教えてくれる。


「この間から宿泊のキャンセルが相次いでいるのよ。ゴールデンウィークにかけて、石動グループが他の大手ホテルグループと手を組んで、破格の値段で泊まれるキャンペーンを始めたのが影響してるみたいね」
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