S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
「これだからあいつらは……やることに品がないんだ、まったく」
父はぶつくさ言っているが、私は不意打ちで飛び出した石動グループの名にドキリとした。
エツのお父様たちが始めた企画なのか。父からしたら、因縁の相手にまた邪魔されているのだから、余計に気に食わないだろう。
確かにキャンセルされるのは痛いな、と考えていると、祥が父のほうに向かっておもむろに歩き出した。デスクを回って父の隣に寄り、パソコンのマウスに手を伸ばす。
「ちょっといい?」
「なんだ、勝手に」
「別に変なことはしねーよ。今スマホがないからこれで調べるだけ」
訝しげな父をよそに、祥は素早くキーボードを打ち、なにかの画面を見て「これか」と呟いた。私と母も、男ふたりの後ろに回り込んでパソコンの画面を覗く。
そこに開かれていたのは有名な旅行サイト。ずらりと並ぶホテルや旅館の情報には、キャンペーンの内容と値下がりした金額が目立つ色で記されていた。
いくつかの高級ホテルを見比べたあと、私は腕を組んで唸る。
「確かに魅力的すぎるわ。一流の高級ホテルにこの値段で泊まれるなら、そっち行くよねぇ」
「俺も、べアティチュードのスイートとか泊まってみたい」