S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
祥が言うのは、ホテルべアティチュード東京というラグジュアリーな五つ星ホテルだ。私も同意してうんうんと頷いていると、「あんたたち、ケンカ売ってる?」と母にじとっと睨まれた。
「そんなに呑気にしていられないのよ。ただでさえ、ここ数年は宿泊客が減ってきてるんだから……」
母は頬に手を当て、困り果てた様子でため息を吐き出した。
彼女の言う通り、徐々に宿泊客が減ってきているのは私も実感している。昔は閑散期も予約が取りづらいほどだったのに、数年前から繁忙期にも空きが出るようになった。去年、修繕工事ができたのも、お客様が少なくなっていたからこそである。
今日のように週末は忙しいし、すぐに赤字になるほどではないはず。しかし、このまま衰退していったら数年後どうなっているかはわからない。
こうなった原因は、多様なホテルがたくさんできたことで競争が激しくなったせいだろうと父は推測しているが、そもそもこの宿は少し時代遅れな部分があると私は思う。
ひぐれ屋は旅行サイトには掲載を許可しておらず、予約を受け付けているのも電話のみ。一応ホームページはあるものの、こういった類のものを重要視していない父は管理もおろそかになっている。