S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
ずっと指摘しているけれど、てんで伝わっていないので改めて言わせてもらう。
「お父さん。うちも旅行サイトに載せてもらって、いろんな割引キャンペーンをやるべきだって前から言ってるじゃない」
「旅行雑誌には掲載しているんだから十分だろう。むやみやたらに宣伝したり、宿泊料を下げたりしたらひぐれ屋の品位が損なわれる」
そんな風に昔気質なプライドを守っている場合じゃなくない?と、私はぎゅっと眉根を寄せて反論する。
「考えが古すぎ。それじゃそのうち年配の人しか来なくなるよ。今の若い人はスマホで全部調べるし、予約もネットでできたほうが行こうって気になりやすいんだから」
「冷やかしならお断りだ」
「はぁぁ? この、がん──っ!」
ツンとして突っぱねる父にイラッとして、思わず悪態が口をついて出そうになるも、なんとか堪える。
「……なんでもない」
「今、頑固オヤジって言おうとしただろ」
「し、てない」
へらっと笑う祥に図星を指され、喉を詰まらせつつしらを切った。父は怒りとショックが交ざったような顔で私を見た後、へそを曲げたらしくふいっとそっぽを向く。
「とにかく、うちのやり方を変える気はない。変わらないほうがいいものもあるんだ」
頑として聞く耳を持たない父に、私たち三人は顔を見合わせて静かにため息を吐き出した。