S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
お腹を満たしてカフェを出た後、食後の散歩がてらクレベール広場へやってきた。とっても広々とした場所で、冬はクリスマスマーケットが盛大に開かれるそうだが、今は涼しげな噴水が上がっている。
広場を囲むようにして周りにはたくさんのショップが立ち並び、その向こうにはストラスブール大聖堂の塔が見える。
あの大聖堂にも行こう。そこに行くまでに美味しいアイスクリーム屋があるみたいだし、食べ歩きしようかな。
銅像のそばに立ってそんなことを考えながら、ゆったりと歩く人々や辺りの景色をカメラに収めていた時だった。
「コンニチワ」
突然カタコトの日本語が聞こえてきて、私はぱっと振り向く。
そこには二十代くらいのフランス人らしき男性が立っていた。ブラウンの短髪にヘーゼルっぽい色の瞳、口元にうっすら髭があり、陽気そうな笑顔を浮かべている。
えっ、なんだろう? 日本で海外の人に道を聞かれたことは何度もあるけれど、今はそういう用じゃないのは明白だし、緊張で身体が強張る。
「日本ノ方デスカ?」
「はい、そうですが……」
「ヨカッタ! ワタシ、チョット困ッテル」
どうやらある程度の日本語はわかるようで、拙いながらも十分聞き取れた。