S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
「来月、フランスの閣僚がプライベートで日本にいらっしゃるんですが、ぜひ歴史のある宿に宿泊したいとおっしゃっているんです」
「ええ……それで?」
「今度、改めて開いている時間に下見をしに来てもいいですか? ここの宿が要人を泊めるのに相応しいと判断したら、ひぐれ屋を紹介させていただきます。多少なりともメリットになると思いますよ」
思いもよらない話に、私も母も目をぱちくりさせた。
閣僚の方が来てくれたら人脈が広がるかもしれないし、ひぐれ屋にとって損はない。もしかして、私が『石動グループがえげつないキャンペーンを始めたからこっちは大変』と言ったから、助けようとしてくれているの?
呆気に取られる私に対し、母がうっすら猜疑心を滲ませた瞳でエツを見つめている。
「社員ではないとはいえ、石動家の一員であるあなたが私たちに協力していいのかしら?」
「天下のひぐれ屋さんが四苦八苦しているのは、俺も見るに堪えないので。他社がキャンペーンを始めたくらいで苦戦するなんて、日頃から業績が思わしくないのでは?」
涼しげな顔でズバッと痛いところを突きまくってくる彼に、私は口元を歪ませた。これは演技じゃなく、本気で思っているんだろう。遠慮のないところは昔から変わっていない。