S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす

「いらっしゃいませ。ラヴァル様、石動様。お待ちしておりました」


 まず父が挨拶し、私たちも見惚れるのはほどほどにして丁寧にお辞儀をした。ラヴァルさんは胸ポケットにサングラスを差し、にこりと微笑む。


「こんばんは。ロマンのある素敵な建物ですね」


 穏やかな声色で紡がれた日本語は、予想より遥かに流暢で驚いた。これならほぼ問題なくコミュニケーションが取れそうだし、エツがいなくなっても安心だろう。

 閣僚というより、海外映画に出てきそうなくらいイケメンな彼は、隣に立つエツを手で示す。


「ムッシュ石動がとてもいい宿だと言っていたので、楽しみにしてきました」
「ありがとうございます。ぜひ日頃のお疲れを癒していただけたらと存じます」


 とても嬉しそうな母が普段通りに返すけれど、〝癒して〟とか〝存じます〟とか、難しい日本語はどのくらい通じているんだろう。

 なんて考えていると、ふいにラヴァルさんの瞳がこちらに向けられた。本当に吸い込まれそうなほど綺麗な瞳に見つめられて、ドキッとする。
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