S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
「あなたはもしかして、えー……〝オカミ〟の娘は……」
なにかを考えているらしく顎に手を当てて呟く彼に、エツが助け船を出すかのごとく言う。
「若女将?」
「C’est ça! 若女将、ですか?」
おそらく〝そうだ!〟と言ったのだろう。ぱっと表情を輝かせるラヴァルさんに、私はふふっと笑いをこぼして会釈する。
「はい。暮泉花詠と申します」
「カエさん。あなたはとても美しいですね。笑顔が桜のようだ」
ストレートな甘い言葉をかけられ、私は目をしばたたかせた。こんな風に褒められたことがないので、めちゃくちゃ照れながら「ありがとうございます。メルシー!」と返した。
すごいな、リップサービスだとしても外国人に言われると威力が半端じゃない。
一気に熱くなった頬を手で仰ぎたくなるも、ラヴァルさんはいまだに私の顔を覗き込んでいる。
「後で少しお話できますか? 若女将さん、初めて会ったので」
そう問われ、私はさりげなく母に目をやる。
ラヴァルさんの対応をするのは母の予定だったが、彼女はうんうんと小刻みに頷いた。〝花詠が担当しなさい〟という意味だろうと受け取り、ラヴァルさんに笑顔で向き直る。