S系外交官は元許嫁を甘くじっくり娶り落とす
「はい。お部屋にお食事をお持ちしますので、その時でしたら」
「よかった。待ってます」
爽やかに微笑まれ、緊張とときめきで胸が早鐘を打つ。普段身近にいない人だから、芸能人に会った時のような感覚に近いかもしれない。
ところが、さっそく部屋へ案内しようとした時、一瞬すごく不機嫌そうな顔をしているエツに気づいてギョッとした。
え、なんで? これまでのやり取りで特に失礼はなかったよね? 極端な話、外交問題に関わると思うとかなり気を遣う……!
冷や汗を滲ませつつも、いつも通りの丁寧で心を込めた接客をすればいいのだと自分に言い聞かせる。部屋に着いてラヴァルさんと話すエツは普段通りだったので、杞憂だったかなとほっとした。
その後は、厨房とお部屋を行き来して食事を運んだ。母もラヴァルさんにうっとりした様子で、「花詠をあんな風に褒めてくれるなんて、愛の国の人はさすがね~。くれぐれも粗相のないようにね」と、念を押しながらも嬉しそうにしていた。
豪華な料理の数々を詳しく説明して、お飲み物のリクエストも聞く。ラヴァルさんは日本酒を飲みたがっていたので、私は張り切ってオススメの一本を用意した。