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「旭」
駿介の強い舌打ちと共に、ガンっと音が響いて、千真は、というより、オフィス内にいた全員がビクッと肩を竦ませ、即座に仕事に打ち込む姿勢を見せた。怒鳴られる、と無意識に構えてしまうのは悲しい性だ。
「仕事にならねぇから、今日はもう早退する」
「送る?」
「いや、いい。タクシーで帰る」
言いながら左手で鞄を開けようとして、それを床に落とす。また、ひどい舌打ちが聞こえてきて、みんな黙々と手元の作業を進めた。触らぬ神に祟りなし、八つ当たりでもされようものなら、たまったもんじゃない。
旭は駿介の鞄を拾い、書類を中に詰めていく。駿介はそれを不機嫌そうな顔で見ながら、嘆息した。
「悪い」
「いいよ。駿介の仕事のフォローくらい、俺でもできるから、今日はゆっくり休みなよ」
「そうする」
はー、と眉間に皺を寄せたまま、駿介は右手を上げようとしてできないことに気づき、舌打ちをしたあとで左手で頭を掻く。利き腕が使えない苛立ちと思うように仕事が捗らない苛立ちが募って、爆発したようだ。
「下でタクシー拾うよ。あ――、賀永さん」
「は、はい!?」
思いがけず名前を呼ばれ、千真は慌てて立ち上がり、ガンっとデスクで足をぶつけた。打ちつけたばかりの足を撫でながら、旭に近づいていくと、少し驚いたように目を丸くされる。
「大丈夫? 今、かなりいい音がしたけど……」
「だ、だいじょうぶです」
打ったばかりなので、痛くないわけがない。けれど千真はそう言うと背筋を伸ばして、旭の顔を見上げた。旭と駿介の近くにいると、なおさら小さく見える千真は、ついてきて、と言われるまま、雛鳥のようにふたりについていく。
「賀永さん、今手持ちの仕事は?」
「営業部の領収証整理です」
「じゃあ、それは俺が引き継ぐから、とりあえず今日は駿介に付き添ってくれる?」
「……はい?」
「はい」
お願いね、と駿介の鞄を押しつけられる。聞き間違いでなければ、駿介に付き添え、と言われた気がするのだが。
駿介の強い舌打ちと共に、ガンっと音が響いて、千真は、というより、オフィス内にいた全員がビクッと肩を竦ませ、即座に仕事に打ち込む姿勢を見せた。怒鳴られる、と無意識に構えてしまうのは悲しい性だ。
「仕事にならねぇから、今日はもう早退する」
「送る?」
「いや、いい。タクシーで帰る」
言いながら左手で鞄を開けようとして、それを床に落とす。また、ひどい舌打ちが聞こえてきて、みんな黙々と手元の作業を進めた。触らぬ神に祟りなし、八つ当たりでもされようものなら、たまったもんじゃない。
旭は駿介の鞄を拾い、書類を中に詰めていく。駿介はそれを不機嫌そうな顔で見ながら、嘆息した。
「悪い」
「いいよ。駿介の仕事のフォローくらい、俺でもできるから、今日はゆっくり休みなよ」
「そうする」
はー、と眉間に皺を寄せたまま、駿介は右手を上げようとしてできないことに気づき、舌打ちをしたあとで左手で頭を掻く。利き腕が使えない苛立ちと思うように仕事が捗らない苛立ちが募って、爆発したようだ。
「下でタクシー拾うよ。あ――、賀永さん」
「は、はい!?」
思いがけず名前を呼ばれ、千真は慌てて立ち上がり、ガンっとデスクで足をぶつけた。打ちつけたばかりの足を撫でながら、旭に近づいていくと、少し驚いたように目を丸くされる。
「大丈夫? 今、かなりいい音がしたけど……」
「だ、だいじょうぶです」
打ったばかりなので、痛くないわけがない。けれど千真はそう言うと背筋を伸ばして、旭の顔を見上げた。旭と駿介の近くにいると、なおさら小さく見える千真は、ついてきて、と言われるまま、雛鳥のようにふたりについていく。
「賀永さん、今手持ちの仕事は?」
「営業部の領収証整理です」
「じゃあ、それは俺が引き継ぐから、とりあえず今日は駿介に付き添ってくれる?」
「……はい?」
「はい」
お願いね、と駿介の鞄を押しつけられる。聞き間違いでなければ、駿介に付き添え、と言われた気がするのだが。