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「空気読めよ」

「いや、それは本当、ごめん」

「……」

 熱が背中から離れ、そこからひんやりと冷たくなってくる。けれど冷たくなった原因は、それだけではないようにも感じた。

「〰〰!?」
「騒ぐなよ」

 千真が悲鳴を上げるよりも先に、駿介に口を塞がれる。
 ありえない、バカ、信じられない。そんな言葉をすべて飲み込まされて、怒りのあまり、思わず口元にあった駿介の手を噛んでいた。

「いってーな。左手まで使えなくなったら、どうしてくれるんだよ?」

「そんなの、自業自得じゃないですか! バカっ、信じられないっ」

「おまえ、俺を手伝いに来たんだろ? だったらたまったもん出す手伝いくらい、当然だろーが」

「た……っ!?」

 今、信じられないことを言われたような気がするが、気のせいではないと思う。
 千真はわなわなと唇を震わせて、涙目で駿介を睨む。そんな手伝いをしに来るわけないでしょう、と当たり前のことさえ言わなければならないほど、頭が悪い人ではなかったはずだ。しかもまた、旭の目の前で。絶対に、確信犯に決まっている。

「あー、ごめん。ふたりの言い合いに、口を出すつもりは、ないんだけど」

 ごめん、と何度も言いながら、旭は視線を泳がせて、嘆息する。

「賀永さん、ボタンだけ留めてもらえる? 目のやり場に困っちゃって」

「……へ?」

「見るなよ、減るだろ」

「じゃあ俺が来るの判ってて、手を出すなよ」

 旭の言葉にピンとこない千真が呆けていると、駿介が千真のシャツの胸元をギュッと握った。
 駿介と旭の会話が途切れ、ようやく、旭の言葉の意味を理解して紅潮する。ボタンが開きっぱなしになっていたせいで、ブラジャーが丸見えになっていたようだった。
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