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 あれれ、そうだっけ。だとしたら、完全に見間違いだ。いい加減、登録名を変えるべきだと本当に思った。

「じゃあ、大狼さんは、なんの用があったんです?」

「……」

「大狼さん?」

 不貞腐れたような駿介に、千真は首を傾げる。駿介は舌打ちして、顔を背けた。

「なんで俺は『大狼さん』で、旭は『旭さん』なんだよ」

「え? なんでって」

 なんでだろう。あまり深く考えたことはなかったけれど、旭のことを名前で呼ぶようになったのも最近だ。それだって、駿介が紛らわしいと言ったからで。

「俺のことも、名前でいいだろ」

「……駿介さん?」

 そう呼んだ瞬間、強い力で引き寄せられた。呼吸ができない、と気づいたのはひと息置いてからで、蹂躙するような乱暴なキスに、千真は力いっぱい、駿介の胸を手で押した。けれどその乱暴なキスが、次第に優しいものに変わっていくのがずるい。
 絡められた舌から駿介の優しさが伝わってきて、それが千真を落ち着かせる。駿介を拒絶するように胸を押していた千真の手は、次第に力が抜け、駿介の首に縋るように回っていた。

 プチン、とブラジャーのホックがはずされたのが判り、千真が咄嗟に離れると、獣のような目をした駿介に捕われ、ゾクッとする。恐怖とは違うそれが、またお腹の奥を刺激した。

 はー、と全身から息を吐き出した駿介が、千真の胸に顔を埋める。

「ヤりてー……」

「だ、だめですっ」

「当たり前だ。こんな誰が見てるかわからねーところで、ヤるわけねぇだろ」

 ちゅ、と触れるだけのキスをして、駿介はまた千真の身体にシーツを巻きつけると、手繰り寄せた鞄の中から見覚えのある箱を取り出した。

「なんだよ、これ?」

「なにって……。バレンタインの、チョコです」

 コンビニで買った、安物ではあるけれど。駿介のために買った、バレンタインチョコである。

「こんなもん、テーブルに置かれてたって、判んねぇだろうが」

「……はい?」

 ふい、と顔を背けた駿介のそれは、明らかに駄々をこねているようにしか見えなくて。
 突き返された箱と駿介を見比べながら、えーっと、と悩み、千真はおずおずとそれを差し出した。

「これ……、バレンタインのチョコです。……駿介さんに」

 受け取ってもらえますか。そこまでは、言うことができなかった。
 噛みつくようなキスに、言葉ごと飲み込まれてしまったせいで。
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