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「うわ、ひどい。これ、なにでやられたの?」

「……爪、です」

 駿介と旭は、千真の両腕を見て言葉をなくした。ひどいミミズバレが、手首から肘の間に無数にあって、ところどころ血が滲んでいる。

「爪かぁ。あれって、実はかなり凶器だよね」

「おい」

 なにか経験があるのか思い出しているふうに言った旭を、駿介が睨む。

「なんで言わなかった?」

 はー、と至極面倒そうにため息を吐いた駿介に、ズキッと心臓が痛むのを感じ、千真は唇を噛んで下を向いた。

「言っても、どうにもなりませんから」

「あぁ?」

 苛立ちを隠そうともせず、駿介は凄んでくる。千真は、負けるもんか、と頬を膨らませた。

「消毒液とかってあったか?」

「消毒液ねぇ。あったかなぁ」

 旭が記憶を辿るように天井を向きながら立ち上がるのに、思わず、大丈夫です、と声を出し、差し出していた腕を自分のほうに引き寄せた。こんなことで、いちいち旭の手を煩わせたくはない。

「こんなの、唾でもつけとけば治りますよ」

「――言ったな?」

 え、と顔を上げた瞬間、駿介が千真の腕を取り、ミミズバレができたそこへ舌を這わせる。ゾクゾクっと駆け上がってくるものがあるのと同時、どうしてこの人は、こんなにも周りの目を気にするということができないのかと甚だ不思議でならなかった。

 今だって、旭が見ている目の前で、なんてことをしてくれるのか。ほら、旭が目のやり場に困って、目を泳がせているじゃないか。

「や、やめてください〰〰」

「じゃあ、ちゃんと手当てしろ。身体に痕を残すんじゃねぇよ」

 自分は残すのに。呆れ返った旭の言葉は、当然、駿介の耳には入ってこない。あれだけ千真の身体にキスマークをつけまくってた奴が、一体どの顔をして言うんだか。
 でもそれだけ、千真を大切にしているんだろうなぁ、と判り、千真には悪いが、なんだか微笑ましくもあった。
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