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「放せ。話を聞きに行くだけだ」
「許可できない。少し落ち着け」
「俺は落ち着いてる」
どこが、と旭に怒鳴られて、駿介は舌打ちする。圭樹は初めて、自分が迂闊にも口を滑らせたことを後悔した。
「針谷くん」
「は、はいっ」
圭樹は動揺の中、誰に声をかけられたのか目を泳がせる。河野と目が合って、慌てて立ち上がった。
「今のふたりがやったという証拠があるのか?」
「いえ、ないです。すみません、俺、いや、僕は、その、昨日の朝賀永に会ったときに、賀永がひどく怯えていて、賀永の前にトイレから出てきたのがそのふたりだったように見えただけで、すみません、全然確証もなくて。すみません、確証もないことを、口にしました」
何度も謝罪の言葉を口にし、しどろもどろになりながら、圭樹は頭を下げる。あんな、一瞬パッと見ただけの後ろ姿だし、当然、証拠なんてなにもない。
ただ千真の様子が気になったのは事実で、その前にトイレから出てきた後ろ姿が、あのふたりに酷似していたというだけだ。
「わかった、ありがとう。できればこれからは、もう少し注意深く見てあげてくれないかな」
「はい、わかりました」
圭樹は頭を上げられず、唇を噛んだ。もっとちゃんと、気にしてやっていたら。
今さら悔いても仕方がないことだが、昨日の朝の自分を、叱咤したい。
「国浦部長、河野部長、今聞いていただいたとおりです。丸野さんと柳原さんに限らず、女子社員には爪を切るよう指導してください」
「それは同感だな」
「キーボードを叩く音が、何気に耳障りだったんだ」
年齢の近い国浦と河野は、それでも部長クラスにしては若い30代である。オーキッド自体が新しい会社なので、自然とそうなってしまったのだが。
「駿介も、無闇に行動するなよ」
「……わかってるっつの」
ちっ、とあからさまな舌打ちが聞こえる。
この部長クラスの中でひとり、圭樹と同じ平社員のはずなのだが、駿介の態度は部長以上を醸し出している。役付きだと言われても、すんなり納得できそうだ。
「許可できない。少し落ち着け」
「俺は落ち着いてる」
どこが、と旭に怒鳴られて、駿介は舌打ちする。圭樹は初めて、自分が迂闊にも口を滑らせたことを後悔した。
「針谷くん」
「は、はいっ」
圭樹は動揺の中、誰に声をかけられたのか目を泳がせる。河野と目が合って、慌てて立ち上がった。
「今のふたりがやったという証拠があるのか?」
「いえ、ないです。すみません、俺、いや、僕は、その、昨日の朝賀永に会ったときに、賀永がひどく怯えていて、賀永の前にトイレから出てきたのがそのふたりだったように見えただけで、すみません、全然確証もなくて。すみません、確証もないことを、口にしました」
何度も謝罪の言葉を口にし、しどろもどろになりながら、圭樹は頭を下げる。あんな、一瞬パッと見ただけの後ろ姿だし、当然、証拠なんてなにもない。
ただ千真の様子が気になったのは事実で、その前にトイレから出てきた後ろ姿が、あのふたりに酷似していたというだけだ。
「わかった、ありがとう。できればこれからは、もう少し注意深く見てあげてくれないかな」
「はい、わかりました」
圭樹は頭を上げられず、唇を噛んだ。もっとちゃんと、気にしてやっていたら。
今さら悔いても仕方がないことだが、昨日の朝の自分を、叱咤したい。
「国浦部長、河野部長、今聞いていただいたとおりです。丸野さんと柳原さんに限らず、女子社員には爪を切るよう指導してください」
「それは同感だな」
「キーボードを叩く音が、何気に耳障りだったんだ」
年齢の近い国浦と河野は、それでも部長クラスにしては若い30代である。オーキッド自体が新しい会社なので、自然とそうなってしまったのだが。
「駿介も、無闇に行動するなよ」
「……わかってるっつの」
ちっ、とあからさまな舌打ちが聞こえる。
この部長クラスの中でひとり、圭樹と同じ平社員のはずなのだが、駿介の態度は部長以上を醸し出している。役付きだと言われても、すんなり納得できそうだ。