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「せっかくだから、おまえも買えば?」

 わざわざ千真の上で頬杖をつくように、ずん、と駿介の肘が頭に乗る。ただでさえ低い身長が余計に低くなるし、髪がぐちゃぐちゃになるので、やめてほしい。

「いやですよ。今月はピンチなんです」

「給料出たばっかじゃねぇか」

「それでもピンチなんですー」

 痛いところを突いてくる。オーキッドの給料日は5日で、今日はまだ10日だった。だが今月は、千真の勇気出費があったので、これ以上使うわけにはいかないのだ。
 それなのに目の前の悪魔は、巧みな言葉で千真を陥れようとしてくる。

「お。これなんか、分割金500円でいいみたいだぜ」

 ぴく、と千真が反応する。見本として置いてあるスマホを触っている駿介の横について、そっとそれを覗き見た。
 千真のスマホも、決して古いわけではない。けれどやはり、新しいものには惹かれる。

 500円。ワンコインではあるけれど、それでも支払いが増えるのは控えるべきだろう。
 でも、500円か。

 今のスマホを買うとき、本当は白がよかったのだが、在庫切れで、仕方なく黒にした。なんの誘惑か、わざわざ『全色在庫あり』と大きなポップが目に入る。
 全色とは言っても、そもそも白がなかったら話にならないじゃないか、と思うが、ありがたいのか残念なのか、黒、白、赤の3色の見本まで置いてある。
 しかも白は、普通の白ではなく、クリスタルパールという名称になっており、ラメが混じっているのかキラキラしているのがまたかわいい。

 くそぅ、と唇を噛む。たった500円かもしれないが、それが2年間は続くのだ。
 落ち着け、千真。

 ふー、と一度深呼吸をして、隣の駿介を見上げる。180cm近い身長の駿介に、150cmしかない千真は、隣に並べば、まるで子供のようだ。

「決めた」

 千真がじっと見ていたのがばれたわけではなさそうだが、急に声を上げられて驚いた。駿介は目を丸くした千真を向くと、に、と口元に弧を描く。

「これにする。画面もデカいしな」

 ついで、色はー、と伸ばした駿介の腕を、千真は咄嗟に掴んでしまった。
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