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「お帰りなさい、旭さん。本当はご飯を作ってようと思ったんですけど、この家、なんにもないんですもん。なにも作れませんでした」

「ただいま、賀永さん。それはいいんだけど、駿介は?」

 ビクッと千真の肩が震える。どうやら、ケンカは続行中らしい。

「お部屋にいると、思います」

「そう。じゃあ、呼んでこようかな。賀永さんも、そこに座っててくれる?」

 わかりました。消え入りそうな声で言われて、今日一日のふたりのことが安易に想像できる。まったく、大人気ない。千真は年下なのだから、駿介が折れてやればいいだけなのに。
 というか、そもそもあれだけのことをしておいて、好きじゃないわけがないじゃないか、バカバカしい。素直に言葉にすれば、それだけで仲直りができると思うのだが、どうにもそう簡単にはいかないのだろう。

 融通の効かないバカには、いくら年下とはいえ、千真のほうから折れないといけないのかもしれない。
 不貞寝をしている巨体に、旭は声を投げた。

「ただいま。とりあえず今日のことを報告するから、リビングに来いよ」

「……」

 やはり、眠ってはいなかったらしい。
 のそりと身体を起こした駿介は、ちっと舌打ちをして、ベッドから出てきた。

「結論から言うと、開発の丸野さんと営業の柳原さんはクビ。安心して会社に来れると思うけど、やっぱり辞めたい?」

「えっと」

 優しく問われ、千真は言葉に詰まる。正直に言えば、もうあの会社に足を踏み入れることさえ恐怖で、できれば近づきたくもない。
 それでも千真のために退職をすすめてくれたのだとしたら、このまま辞めるのは失礼になるのかもしれない、とも考えて、迷う。
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