幸せのつかみ方
「樹さん」

「?」


樹さんの方をしっかりと見つめた。




言わなくては。




もう会わないと。




言わなくては。



いつもと違う私の様子に気が付いたのか、樹さんは手に持つグラスを置き、真剣な目で私を見つめ返した。


「酔った?大丈夫?」
頬に手の甲を当てられる。

樹さんの手も温かくて、私の頬が熱いのかどうかわからない。
でも、私は酔ってないことは分かる。

これから樹さんに伝えようとしていることを考えると、お酒に酔ってなんかいられない。
少しでも、長く。
樹さんと一緒にいたいと思ってしまう。

ああ。

もう分かっている。


これは、



この感情は・・・・



『恋』だ。




私は樹さんに微笑んだ。
「少し、酔ったかも」

「大丈夫?お手洗い行く?」

「ううん。平気。
あのね、私ここの砂肝が好きなんです」
「うん。おいしい」
「でしょ?樹さんに食べて欲しかったんです。
あ。今までいろいろごちそうになったので、今日は私のおごりです!
といっても、私がごちそうできるのは大衆居酒屋くらいで。
樹さんが行かれるようなお店じゃなくてすみません。
でも、いっぱい食べて、飲んでくださいね」

「俺、居酒屋好きだよ。学生の時は友人とよく行ったし」
「へえ、意外」
「今だって職場の飲み会とかで行くでしょ」
「確かに」
「あ、ホッケ食べたい」



樹さんとの会話が楽しい。心地いい。


でも・・・・。

これが最後。





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