幸せのつかみ方
「もう、11時過ぎてる。そろそろ出ましょう?」
「ああ」
と樹さんはお勘定に手を伸ばした。

私はそれをさっと奪い、
「今日は私がごちそうするんですって」
「ははっ。ありがとう。気持ちだけでいいよ」
と手を伸ばしてきたから、私はレシートが挟まった黒い板をぎゅっと胸元に握りしめた。

樹さんは少し困ったように笑い、
「では。ごちそうになります」
と言い、

「はい、どういたしまして」
と私も微笑みかえした。



レジに持って行き、
「樹さんは外で待っていてください」
と出入り口を指さした。
樹さんは嬉しそうに「はいはい」と笑っている。

私はその背中に泣きそうになる心を抑えつけた。


もう、おしまい。




「ふうーっ」

深呼吸をして、お支払いを済ました。



がらがらがら。

重いドアを左にスライドさせる。

ドアの上部でドアを支えてくれる大きな手。

真横に樹さんが立っていた。

「ありがとうございます。ごちそうさまでした」
と樹さんが微笑む。

ものすごく優しい目で見降ろされる。


ああ。
私はこの人にこれから言わなくてはいけないんだ。

こんなに優しい目で見つめてくれるこの人に。
こんなに『好きだ』と目で訴えてくれるこの人に。







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