幸せのつかみ方
しばらく歩いて、私は立ち止まった。

2,3歩先に進んだ樹さんが立ち止まって振り返る。

「大丈夫?気持ち悪い?」
樹さんは慌てて私に近づいた。
私の左腕に手を添え、顔を覗き込んだ。


樹さんを見つめる。
樹さんが見つめる。



私は、勇気を出して、声を発した。




「もう、会えません」






「え?」
左腕にあたる指先がびくりと動いた。


「もう、二人で会えません。ごめんなさい」
私は頭を下げる。


樹さんは私の腕に手を添えたまま止まっている。


「なぜ?」


樹さんの声に私の目が泳ぐ。

「あの・・・。夫と、別れた夫とやり直すことになりました」

「!?」

樹さんが息を呑んだのが分かった。

樹さんの目が少し大きくなって、左右に小さく揺れる。

私の目を、瞳の奥を覗くように見つめている。
私の心を覗くかのように、奥深くまで見つめてくる。

私はその瞳を見つめ返す。


「だから・・・樹さんと二人で会うことはできません。すみません」

「本当に?」

「・・・はい」
嘘を見向かれるのではないと思い、目を伏せて樹さんから目を逸らした。

「結婚するの?」

「いえ。籍はこのまま、抜いたままですけど」

「彼を・・・許せるの?」

「許す?私、裕太のこと何か話しましたか?」

「いや。直接的には…何も」

「・・・まあ、確かにいろいろあったんですけど・・・やり直そうと」

「・・・」

樹さんは黙ってしまった。
重い沈黙が流れる。




「樹さん。ありがとうございました」

「何に対して?」

「私、樹さんと一緒にいて楽しかった」

顔を上げ、樹さんを見ると、こちらを見ていた樹さんと目があう。

「たくさん笑ったし、ドキドキもしました」

「それなら 「でも違うって思った」 」


「違う?」

「樹さんはすごく素敵な人だった。でも、好きじゃない。

だから・・・

樹さんとはお付き合いできません」

「千夏さん・・・」

「ごめんなさい」





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