幸せのつかみ方
樹の想い
【樹 side】
今日の昼に、俺は母の呼び出しにあい、車で実家に向かっていた。
車を走らせていると、横断歩道を渡る千夏さんを見かけた。
久しぶりに見る千夏さんは七分袖のロングチュニックにジーンズというカジュアルな服装で、重そうな買い物袋を持っていた。
一瞬、千夏さんの家から離れていたので見間違いかとも思った。
しかし、初めて出会ったのはこのあたりだったのを思い出し、千夏さんが住んでいた家、つまり元夫の家があるのがこのあたりなのだろうと気付いた。
本当によりを戻したんだ・・・。
もしかしたらとわずかな期待をしていたのだが、目の前を渡っていく千夏さんに現実を思い知らされる。
このあたりで千夏さんはおばあさんを助けるためにあたふたしていたなと思い出しながら、歩いていく千夏さんを目で追いかける。
信号が変わり、車を発進させたが、このまま実家に戻って家族と話をする気になれず、俺は病院に向かうことにした。
そして、仕事のいくつかをした。
その間、気持ちを切り替えるどころか、頭の中は千夏さんでいっぱいだった。
「樹さん」と俺を呼んで、にこにこと笑う千夏さん。
恥ずかしそうに眼をそむける千夏さん。
何かを思いついた時に、嬉しそうに目を輝かせる千夏さん。
苦しそうに唇を噛み、涙を流す千夏さん。
職場で患者さんや同僚たちと話すときの落ち着いた様子と、普段の千夏さんは違う。
優しい雰囲気は同じだが、普段の千夏さんはもっと喜怒哀楽がはっきりしていた。
時折見せるキラッとした瞳に俺はドキドキさせられた。
「ふうー---」
溜息をついて、前髪をかき上げた。
いろいろな千夏さんを思い出してしまった。
「逢いたい・・・」
俺は呟いていた。
***
俺は千夏さんのアパートの前に立ち、暗い部屋の窓をしばらく見つめていた。
今、千夏さんはよりを戻したという旦那の家にいるんだろう。
今夜は帰ってこないのかもしれない。
そう思いうと、胸が絞め付けられる痛みに襲われる。
千夏さんに『もう会えない』と言われてから、千夏さんに会っていない。
千夏さんが昼食をとっている屋上に行かず、電話もLINEもしないと千夏さんに会うことは全くなくなっていた。
俺はフラれたんだと自分自身に言い聞かせても、逢いたいという気持ちが増えていく。
アパートの暗い窓を見つめた。
逢いたくて
逢いたくて
どうしても千夏さんに逢いたくて
俺フラれたって分かっているんだ
分かっているけど、一目でいいから逢いたくて
すまない
恐いよね
こんな夜に、住んでる家の窓を眺める男がいるなんて恐いよね
ごめん
「ふっ」
自嘲的な笑いを浮かべ、千夏さんのアパートに背を向けた。
【樹 side 終】
今日の昼に、俺は母の呼び出しにあい、車で実家に向かっていた。
車を走らせていると、横断歩道を渡る千夏さんを見かけた。
久しぶりに見る千夏さんは七分袖のロングチュニックにジーンズというカジュアルな服装で、重そうな買い物袋を持っていた。
一瞬、千夏さんの家から離れていたので見間違いかとも思った。
しかし、初めて出会ったのはこのあたりだったのを思い出し、千夏さんが住んでいた家、つまり元夫の家があるのがこのあたりなのだろうと気付いた。
本当によりを戻したんだ・・・。
もしかしたらとわずかな期待をしていたのだが、目の前を渡っていく千夏さんに現実を思い知らされる。
このあたりで千夏さんはおばあさんを助けるためにあたふたしていたなと思い出しながら、歩いていく千夏さんを目で追いかける。
信号が変わり、車を発進させたが、このまま実家に戻って家族と話をする気になれず、俺は病院に向かうことにした。
そして、仕事のいくつかをした。
その間、気持ちを切り替えるどころか、頭の中は千夏さんでいっぱいだった。
「樹さん」と俺を呼んで、にこにこと笑う千夏さん。
恥ずかしそうに眼をそむける千夏さん。
何かを思いついた時に、嬉しそうに目を輝かせる千夏さん。
苦しそうに唇を噛み、涙を流す千夏さん。
職場で患者さんや同僚たちと話すときの落ち着いた様子と、普段の千夏さんは違う。
優しい雰囲気は同じだが、普段の千夏さんはもっと喜怒哀楽がはっきりしていた。
時折見せるキラッとした瞳に俺はドキドキさせられた。
「ふうー---」
溜息をついて、前髪をかき上げた。
いろいろな千夏さんを思い出してしまった。
「逢いたい・・・」
俺は呟いていた。
***
俺は千夏さんのアパートの前に立ち、暗い部屋の窓をしばらく見つめていた。
今、千夏さんはよりを戻したという旦那の家にいるんだろう。
今夜は帰ってこないのかもしれない。
そう思いうと、胸が絞め付けられる痛みに襲われる。
千夏さんに『もう会えない』と言われてから、千夏さんに会っていない。
千夏さんが昼食をとっている屋上に行かず、電話もLINEもしないと千夏さんに会うことは全くなくなっていた。
俺はフラれたんだと自分自身に言い聞かせても、逢いたいという気持ちが増えていく。
アパートの暗い窓を見つめた。
逢いたくて
逢いたくて
どうしても千夏さんに逢いたくて
俺フラれたって分かっているんだ
分かっているけど、一目でいいから逢いたくて
すまない
恐いよね
こんな夜に、住んでる家の窓を眺める男がいるなんて恐いよね
ごめん
「ふっ」
自嘲的な笑いを浮かべ、千夏さんのアパートに背を向けた。
【樹 side 終】