幸せのつかみ方
千夏さんが電話を切ったのが見えた。
そして、その場に崩れ落ちる様に座り込んだ。。
!?
慌てて近寄ろうとしたが、ぐっとこらえる。
「ふえっ・・・ふえー-・・・。ひっく・・・ふっ・・・えー・・・・ふうううん・・・わああああああ」
そのまま、うなだれる様な姿勢で、嗚咽を上げながら泣き始めたからだ。
俺は少し離れたところで立っている。
次第に大きな声になっていく鳴き声に、近づくことができなかった。
屋上に座り込んで手を付いて、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして泣く千夏さんを慰める術はない。
手の甲で顔を拭う彼女を今すぐに抱きしめたい衝動に駆られる。
悲しみ全部を忘れさせてやりたいと思った。
でも夫の不倫で苦しむ彼女を抱きしめてやることは正しいことなのか?
千夏さんをむしろ苦しめることになるのでは?
千夏さんの苦しみを無くしてあげたい。
でも今俺が彼女を抱きしめてもただのセクハラになるのではないか?
それに俺の気持ちを伝えても、千夏さんを苦しめることになるのでは?
同じことをぐるぐると思い悩む。
ただ、千夏さんが誰もいないこの屋上で一人泣いているのだから、きっと誰にも見られたくないのだろう。
そして、千夏さんは俺に抱きしめられることを望んでいないだろう。
そう思うと、俺ができることは、していいことは、彼女に泣かせてあげること以外に何もない。
何もできない自分のふがいなさに唇をかんだ。
そして、俺は静かにその場を離れた。
屋上のドアを静かに開け、何か温かい飲み物をと思い、1階にあるコンビニに行くためにエレベーターに乗った。
【樹 side 終】