幸せのつかみ方
現在  <恋人という名のレストラン>

【樹side】

千夏さんが離婚して1年が過ぎていた。

待っていましたとばかりに誘うわけにもいかず、好きとも交際をほのめかすこともできないままぐずぐずしていたら時間が立ってしまっていた。


金曜日の夜。
意外なところで千夏さんに会った。
それはコンサルタント時代にお世話になった社長が、新しくオープンさせたレストランにだった。

レストランは少し郊外にあったが、交通の便も悪くなく、
昼間は水面に太陽が反射して美しく、夜は湾を挟んで向こう岸の夜景が見えるロケーションは恋人同士にはぴったりな場所だという。出される料理も繊細で、目にも口にも心地よい店だと評判になっていた。

今もコンサルタント会社に勤める女性社員二人と上司の4人でお祝いがてら、このレストランを予約した。

一人は俺が退社する際に代わりに担当することになった後輩の女性社員。
一人はずっと俺のアシスタントとして事務をしてくれていた女性社員。
もう一人の上司は俺に仕事を教えてくれた人で、久しぶりに会うのを楽しみにしていた。

上司と事務さんが少し遅れるようだと連絡が入った。
店の外で待っていても邪魔になるだけだと、先にテーブルに着いて待つことにして、後輩をエスコートして店内に入った。



予約者である上司の名前を告げ、テーブルに誘導される。


黒服のスタッフの後を歩きながら、一つのテーブルに目がとまった。
食事をしていた千夏さんがいたのだ。
驚いて足を止めてしまい、それに気付いた千夏さんと目が合った。


千夏さんも驚いた顔をしている。

千夏さんは俺と一緒にいた後輩をちらっと見て、静かに微笑み、軽く会釈をした。
俺も平静を装い、同じように微笑んで会釈を返した。


再び歩を進め、通り過ぎていく彼女の気配に気をとられつつ、スタッフの後に続いた。


千夏さんは男性と二人で食事に来ているようだった。

俺がもたもたしているうちにこんな「大人デートに来ました」と言わんばかりのレストランで、一緒に食事に来るような相手ができてしまったのかとショックをうけていた。


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