幸せのつかみ方

「料理にしても、掃除にしても、いつも千夏がってくれてたんだよな」
「うん・・・まあ」
「何もかも一人でやってみたら大変でさ。千夏の偉大さを知ったよ」
「そんなことないよ。慣れよ、慣れ」
「一人暮らしには広すぎる家だよ」
「那奈さんと住めばいいじゃない」
気にしていないことを強調したくて、なんともないとでもいうように食を進める。



「那奈とはもう会ってないよ」



・・・・・・・。

手が止まる。


ゆっくりと視線を裕太に向ける。


裕太も私を見つめていたから、目があった。



「那奈とはあれから会ってない」
「あれから？」
裕太の目を見て、裕太の本音をしっかり見つめた。


「事故した時、電話があったんだ」

ああ、あの後那奈さんは連絡してきたんだ。
もう過ぎたことなのに、心臓が早くなるのを感じた。


「千夏には勝てないって言ってた」
「勝てない？」
「千夏、那奈に電話かけたんだろ？
夫が逢いたいのは私じゃなくてあなただと思うから会いに来てくれって言われたって。
人生は１度きりなんだから、好きな人と一緒にいるべきだって。
絶対に嫌なはずなのに、夫のために憎むべき不倫相手に会いに来てほしいと頼むような、奥さんには勝てないって。
それで、もう会ってない。連絡もしていない」
「・・・・」


「俺も事故して、千夏が支えになったんだ。俺、「やめよう！」」
私は裕太の言葉を止めた。

「千夏？」

「ごめんなさい。他の話にしよう。
直幸がプレゼントしてくれた食事でするような話題じゃなかったわ。
聞いておいてごめんなさい」
「いや。…そうだな。俺の方こそ、ごめん」



「それにしても、本当に素敵なレストラン。
こんなところで食事ができるなんて夢にも思わなかったわね。
もしかして、直幸、彼女でもできたのかしら？」
敢えて声を明るくして話を変えた。

「彼女を連れてきたってこと？」
「そう！あり得るでしょ？」
「もう、２２歳だもんな」
「大きくなったわ」
「俺、直幸に身長抜かれた時、ちょっとショックだったよ」
「あはははは」


それからは何もなかったかのように再び話をし、食事をした。



ただ。
せっかくの料理の味は、ほとんど分からなかった。