幸せのつかみ方
食事を終え、店の人にタクシーを呼んでもらった。
席で待っていいと言われたが、「酔い覚ましに外の風にあたりたい」と言った裕太と外でタクシーを待つことにした。
ワインで熱くなった頬に夜風が当たって気持ちいい。
「千夏」
「んー?」
視線を合わさないままで返事をする。
「やり直さないか?」
「・・・タクシー、まだかしら?」
私は返事をせず、話を逸らした。
「千夏、ごめん。俺が悪かった。本当にごめん」
「・・・・・」
「俺、千夏がいないとだめだ。やり直さないか?」
「やり直せると思っているの?」
「やり直したいと思ってる」
「・・・はあああ」
溜息が出る。
いや、溜息をして感情を抑える。
そして静かに問う。
「私がどんな気持ちで出て行ったと思っているの?
どんな気持ちで20年も・・・那奈さんの存在を知ってもずっとそばにいたと思っているの?
どんな気持ちで・・・・那奈さんに電話を掛けたと思っているの?」
「ごめん・・・」
「謝ってって言ってるんじゃない。
私とやり直せると少しでも思っていることに腹が立つ」
「千夏・・・」
目の前が霞む。
怒りすぎて涙が出てくる。
「ふうー」
深呼吸を一つして、
「私、もう一杯飲んで帰るわ。タクシーはあなたが使って」
「千夏!」
「それじゃ。おやすみなさい」
私はくるりと背を向け、さっき出てきたレストランに向かって歩いた。
車のライトが光り、背後でタクシーが来たのが分かった。
「千夏!」
腕を引かれた。
「俺が残るから、お前がタクシーに乗れ」
そう言って裕太は私を引っ張ってタクシーに乗せた。
運転手にお金を渡す裕太に、
「自分で払えるわ」
と言うと、
「いいから」
と言ってドアを閉められた。
「連絡する!!」
ドア越しにも聞こえるほど、大きな声で言われる。
「連絡するから!!」
私はその声を無視して、
「運転手さん、出してください」
と頼んだ。
タクシーが出発し、店が見えなくなる頃、
「はあああ」
額に手を当てて深い溜息を落とした。
「お客さん?」
と運転手さんに声を掛けられて、そちらを向く。
「どちらまで?」
「え?」
「どちらまで行きましょうか?」
行き先を言ってないことに慌てて謝り、アパートのある住所を告げた。、
直幸のことを思い出し、
『ごちそうさま。とてもおいしかったわ。ありがとう』
とメールを送り、スマホを鞄に入れた。
それからしばらく、車窓から流れるネオンをぼーっと眺めていた。