幸せのつかみ方
「千夏さん」
後ろから声をかけられて振り返った。
そこには歩いてこちらに来る樹さんがいた。
1週間前にレストランであった時以来に見かける樹さんは、
「お疲れ様です。昼食ですか?」
といつものように、にこやかに微笑んだ。
「樹さん。お疲れ様です」
と私もお辞儀をする。
「お隣、いいですか?」
茶色の紙袋とカップに入ったコーヒーを持ったまま、ベンチを指さした。
「ええ、どうぞ。今からお昼ごはんですか?」
「はい。千夏さんがいらしてよかった」
「?」
「あ・・・と。最近、ここで会わなかったので、気になってたんです」
ちょっと考えて、そういえば今週は遅番や、患者さんの対応が長引いたりして遅めの昼休憩だったことを思い出す。
「あれ、今日はお弁当ではないのですね」
「あ。はい。今日は、ベーグルサンドです。
昨日テレビでベーグルの紹介してるのを見てしまって。ふふふ。もう、ベーグルが食べたーいってなっちゃんですよね」
「同じ!あれ、俺もみたんです!」
「え?」
樹さんはがさがさと紙袋を開けて、中からベーグルサンドを出した。
「俺も昨日テレビで見たんですよ。で、ベーグルサンドを買ってきてしまいました」
「ふふっ」
「はははは」
昨日見たテレビは、芸能人が町を散歩しながらおいしいものを食べ歩たり、町の人と交流をするという番組だった。
同じ番組を見ていることが意外だったし、食べたくて買っちゃうところまで同じだったことが可笑しかった。
「驚きました。千夏さんも同じ番組見てたんですね」
「びっくりです」
「それなら、カルパッチョも見ました?」
「見ました!すっごく美味しそうだった!」
「そう!しかも食べる芸人さんがめちゃくちゃおいしそうに食べるから!」
「うんうん!口中がよだれでした!」
「あはははは!わかる!千夏さんもイタリアン好きなんですか?」
「大好きです!樹さんも?」
「俺も。あ、お奨めのおいしいイタリアンあるんですよ。よかったら今晩行きませんか?」
「え?」
盛り上がった話の流れで誘われたのに「え」とか言っちゃった。
樹さんには他意はないのだろう。意識してしまった自分が恥ずかしい。